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【マイナス金利】量的・質的金融緩和の恩恵はどこにあるのか

マイナス金利の目的は「イールドカーブの起点を引き下げる」

この1か月、心身ともに疲れきった人も多いのではないでしょうか。市場は年明けから下げっぱなし。日経平均株価は、もはや東尋坊から片足が落ちていたも同然の状態でしたが、欧州で追加緩和の意向が表明されたことで21日を底に何とか下げ止まりの様相が現れ、そして29日。日銀政策決定会合が、この1か月を締め括りに相応しい乱高下を提供してくれました。

日経平均先物の29日の5分足です。12時20分に1万6800円の安値をつけたところから15分で1050円の大爆騰。すると、今度は5分足8本で1100円の大爆落。昨年12月18日の政策決定会合時を凌ぐ凄まじい値動きでしたが、大引けまで下げ続けた前回とは異なり、今回は13時20分から再反転。安値から900円上げて、前日比プラス580円の1万7640円で引けています。この3時間弱の間に動いた値幅を合計すると3000円超。売り買いしている主体は高速プログラムですから、買い疲れも売り疲れもしないのでしょう。

これだけ市場を動かしてくれた日銀政策決定会合の中身がどういうものであったのか。週末に報道各所で取り上げられていますが、やはり一次情報をチェックしておきたいところです。

日銀がポイントとしてあげているのは次の2点です。
●「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入
日銀当座預金に▲0.1%のマイナス金利を適用。ただし、欧州で採用されている階層構造方式で、日銀当座預金残高のうち「基礎残高」部分の適用金利は従来通りのプラス0.1%。マクロ加算残高は0%、政策金利残高がマイナス0.1%。
●「量」「質」に「マイナス金利」を加えた3つの次元による追加緩和が可能なスキームを設定
大規模な長期国債買い入れと併せて、イールドカーブの起点を引き下げることによって、金利全般により強い下押し圧力を加える。

国債金利のイールドカーブは当サイトでも日々更新していますが、14年7月から6か月ごとのイールドカーブをまとめると図2のようになります。

“バズーカ2”が出た後、黄色のカーブ(14年7月22日時点)が緑のカーブ(15年1月22日)にまで押し下がる効果が表れています。が、その後、再びカーブが上方向に移動し、15年7月22日時点ではピンクの線の位置まで戻ってしまっています。直近のカーブは黒の線で、半年前より押し下がっているものの、残存5年以下の国債は1年前とほとんど変わらない状況になっています。

このグラフでは「イールドカーブの起点」に相当するところはプロットされていませんが、今後のカーブが確実に緑の線を下回るようにするには、「0年」に相当する起点の位置を下げる他はなかったと考えられます。いかにして起点を下げるのか。その実現のための「マイナス金利導入」というということでしょう。

(後記・2/6)その後のイールドカーブです。

見事に押し下がりました。


REITが買われた理由は「不動産関連」だからだけではない

この量的・質的追加緩和策が市場のどの部分にどういう刺激を与えたのか。次に、この日の業種別指数の騰落率を見てみましょう。

図表3:業種別指数ランキング
業種名 引値 (前日比) 前日比率
不動産業 1,473.51 128.14 9.52%
証券、商品先物取引業 404.98 24.99 6.58%
鉱業 307.07 17.71 6.12%
その他金融業 613.13 31.69 5.45%
建設業 1,061.87 54.04 5.36%
食料品 1,871.17 87.74 4.92%
ゴム製品 3,212.06 141.52 4.61%
その他製品 1,721.95 74.88 4.55%
輸送用機器 3,040.42 131.57 4.52%
倉庫・運輸関連業 1,595.67 68.62 4.49%
非鉄金属 869.49 37.04 4.45%
石油・石炭製品 885.1 35.85 4.22%
陸運業 2,190.73 88.22 4.20%
電気・ガス業 484.35 19.09 4.10%
サービス業 1,623.91 55.06 3.51%
鉄鋼 471.65 15.75 3.45%
機械 1,370.64 44.13 3.33%
水産・農林業 477.22 15.33 3.32%
小売業 1,127.08 35.25 3.23%
海運業 309.38 9.59 3.20%
卸売業 1,109.14 34.11 3.17%
パルプ・紙 439.66 13.31 3.12%
化学 1,422.92 42.02 3.04%
精密機械 4,661.69 137.22 3.03%
ガラス・土石製品 997.58 27.63 2.85%
情報・通信業 2,908.66 80.1 2.83%
金属製品 1,159.44 30.72 2.72%
繊維製品 693.13 13.49 1.98%
保険業 842.71 15.27 1.85%
空運業 327.51 4.92 1.53%
医薬品 2,698.09 19.88 0.74%
電気機器 1,633.48 7.69 0.47%
銀行業 175.33 -3.56 -1.99%

上位には、不動産、証券・商品、その他金融、建設といった、言わばバブリーなセクターが並んでいます。ひときわ激しく上昇したのが不動産です。不動産セクターは、“アベノミクス”に先行する格好で12年半ば頃から良好なトレンドになっていましたが、13年5月以降はまるでパッとせず。昨今では「もう終わったな」と解釈して差し支えないような値動きになっていました。この量的・質的追加緩和策は、2年半以上続いてきた軟調な値動きを巻き返す起爆剤になるかもしれません。

一方、インデックスでは東証REIT指数が前日比5.6%高という大上昇を演じています。

この上昇は、REITが不動産関連だから、というだけではなさそうです。

報道ではあまり取り上げられていないようですが、この上昇の背景のひとつとして、今回の追加緩和策の中に、REITの買入れ限度の引き上げが盛り込まれていることがあります。これまで、REITの銘柄別買入れ限度は発行済み投資口の総数の5%以内だった基準が、今回10%に改正されています。

また、当欄で以前取り上げたことがありますが、REITの値動きは不動産関連株としての側面のほかに、利回りが価格に影響する債券的な側面があります。これも上昇の一因と見られます。

図6は『<株>テクニカル情報2016年新春号』掲載のREIT指数連動型ETF(1343)の「各種指標との相関性」欄です。国債金利に対して強い逆相関性がある、つまり、このETFの値動きには、国債金利が上昇すると価格が下がり、国債金利が低下すると価格が上がるという性質があります。これは、債券の価格と同じように、国債金利が上がれば、その水準にREITの分配金の利回りが見合うだろうと判断されるところまで売られる(=価格が下がる)、逆に、国債金利が下がれば、買われて価格は上昇し、分配金の利回りが下がるというメカニズムです。

長期国債の買い入れと国債のイールドカーブの起点の引き下げによって、金利全般により強力な押し下げ圧力がかかることは、REITの価格上昇(=分配金の利回り低下)を誘発する強い要因になります。その値動きを先取りする形でREITが買われた部分も確かにあると思われます。


値動きの素直さ、捉えやすさが特徴のREIT指数連動ETF

東証には複数銘柄のREITが上場されていますが、売買対象にするならば、先に見たREIT指数連動型のETFは筆頭候補と言ってよいでしょう。というのは、これも以前当欄で紹介した通り、このETFは値動きが非常に素直で捉えやすいからです。

『<株>テクニカル情報2016年新春号』の「値動き分析」欄を見ると、過去3年のデータによる分析結果では、このETF自身の引値の前日比上昇・下落に対して順張りの傾向があることと、東証REIT指数の前日比上昇・下落に対して順張りの傾向があることがわかります。

図8は、この2つの売買を検証してみた結果です。どちらも右肩上がりですが、東証REIT指数の前日比上昇・下落をシグナルにした順張り売買の累積パフォーマンスはより注目に値します。この右肩上がりは、このETFは「東証REIT指数が上昇した翌日値上がりしやすい」「東証REIT指数が下落した翌日は値下がりしやすい」という値動きの性格を表しています。つまり、指数に連動するよう組成されてはいながらも、指数の動きより1日遅れて動く傾向がある、ということです。

このETFは、流動性も十分で売買もしやすい点でもメリットがあります。難点をあげるとすれば、指数連動のETFであるがゆえにボラティリティーが低く、1回の売買で期待できる値幅が小さいことですが、量的・質的追加緩和の効果が鮮明に出てくれば、その恩恵によって値動きがよくなる可能性もありそうです。

よりダイナミックな値動きを志向するならば、追加緩和策が追い風になると目される個別銘柄を狙う手はもちろんアリでしょう。ただ、現状は理想買い(銀行は思惑売り)の要素がかなり強いと見られます。些細なことで乱高下しかねない市場環境を踏まえて、それに翻弄されないよう、売買のストラテジーは明確に持っておきたいところです。



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