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【新上場ETF】トレード派には実に残念(!?)な「IS米国債」

期間10年程度の米国債価格はドル円レートと逆相関傾向

先週(11月19日)、iシェアーズ(ブラックロック)の外債型ETFが3本、東証に上場しました。その中に、長期投資というよりはトレードという観点で「おや?」と思った銘柄がありました。iShares米国債(以下、IS米国債、銘柄コードは1363)です。

個人が外債を売買する場合、外債ファンド(投信)か個別の外債銘柄を対象とすることになりますが、投信はそれなりの手数料がかかる。外債は売買スプレッドが大きい。どちらにしても価格が見えにくい、等々の難点があります。ETFも投信ではありますが、価格は取引所の売買板(気配)で見え、取引時間内ならいつでも売買可能。しかも、売買手数料は株と同じ。そうした好条件で米国債が売買できる、ということで、このIS米国債に注目したのですが、投資対象は「7年〜10年の米国債」。ということは、概ね10年物T-Noteのファンドと同じと捉えられます。これを知ったところで、当初の「おや?」は、「うーむ、残念」に変わります。10年物米国債を円で投資する場合、債券価格の変動よりもドル円レートの変動のほうが重要になってくるからです。

図1のグレーの線がiShares 7-10 Year Treasury Bond ETF(IEF)の価格(米ドル)です。長期的には米国金利は低下傾向を続けているので、価格は上昇傾向になっています。これをその時々のドル円レートで円換算したのがオレンジの線です。この2つを見比べると、たとえばリーマンショック時に米国債ファンドの価格が急騰しているのに、円ベースでは伸びない。その後も米国債ファンド価格は着々上昇トレンドを描いているにも関わらず、円ベースでは逆に右肩下がりが11年前半まで続いています。そうなる理由は、米国債価格とドル円の相関関係を見るとわかります。

ドル円レートと10年物米国債ファンド価格は、図2のグラフのように逆相関の傾向になっています。つまり、趨勢としては「円安ドル高ならば債券価格は安い(金利は高い)」「円高ドル安ならば債券価格は高い(金利は低い)」ということです。ボラティリティー(日率)は、ドル円が0.7%、米国債ファンド価格が0.4%(円ベースでは約0.6%)。ドル円の値動きの方が大きく上回っているため、米国債が値上がりしても円高ドル安の影響のほうが大きく、その恩恵が帳消しにされることもしばしば起きるわけです。


超長期の米国債なら為替を気にせず、しかも株にも勝る値動きが期待できる

米国市場には、いろいろなタイプの米国債ETFが上場しています。

図3は、残存期間が20年以上の米国債を投資対象とする「Long-Bondファンド」です。このETF価格のボラティリティーは0.9%ですから、ドル円以上に債券価格の方が重要になってきます。債券価格とドル円レートが逆相関ということは、価格のボラティリティーがドル円のボラティリティーより大きいほど、円ベースで考えた場合の為替による影響を小さくできる、ということです。ですから、より値動きの激しい、たとえば長期のゼロクーポン債のETFがあれば、ドル円レートをほとんど気にせずに、債券価格の上げ下げを取るトレードも可能になります。

ちなみに、米国に上場しているゼロクーポン債のファンド(ZROZ)は、規模が小さく取引量は少ないものの、ETF価格のボラティリティーが1.6%程度もあります。これは、株価指数のボラティリティー(S&P500=1.0%程度、日経平均株価=1.4%程度)を凌ぐ大きさです。日経平均2倍型ETFが大いに受けていることからすると、いまの市場はより大きな値動きを選好する傾向が強まっているように思われます。よりダイナミックに動く米国債ETFを期待したいところです。


日本株との関係でいえば「FXとあまり変わらない」

今度は、米国債ファンドの価格と日本株の関係を見てみましょう。

日経平均株価が上がれば米国債ファンドの価格は下がる。日経平均株価が下がれば、米国債ファンドの価格は上がる。逆相関の傾向があるように見えます。が、米国債ファンドの価格を円換算すると、図5のようになります。

逆方向の動きを見せる局面もないわけではありませんが、趨勢としては正相関。やはりドル円の影響のほうが強いのです。そうすると、新上場のIS米国債を売買することは、FX(ドル円)の売買に相当近いと考えられます。(結論:なーんだ、全然面白くない)

なお、先週上場した3本のETFは、アイルランド籍のETFをJDR(日本預託証券)にしたものです。ここまで例にあげたいくつかの米国債ETFは米国籍のものですが、東証に上場するのは、非居住者(欧州)向けのETFで、欧州の複数の取引所に上場しています(東証での取引は円ベース)。IS米国債は、ロンドン証取では「IDTM」がティッカーです。ヤフー(アメリカ)では「IDTM.L」、ブルームバーグ(日本含む)では「IDTM:LN」で調べられます。

以下は、その他の外債ETFのメモです。結構いろいろな種類があります(債券ETFの税制上の取り扱いは株ETFと同じです)。

東証の外債ETF一覧は、「ETF一覧 -外国債券指数-」、にあります。

1361・IS米国HY債
米国のハイイールドボンド、ジャンク債ファンドです。債券ですが社債が多いので株式の性質も併せ持っています。投信で持っている人も多いかと思います。ティッカーは「IHYU」。
1362・IS新興国債券
新興国の自国通貨建て国債ファンドです。新興国が発行するドルとかユーロ建て債券ではないので「自国通貨建て」です。従って新興国の為替レートの影響を受けます。主な対象国はトルコ、タイ、南アフリカ、インドネシア、ポーランド、メキシコ、マレーシア、ブラジルなどです。今回の3本のETFの中では一番人気のようです。ティッカーは「IEML」。
1349・ABF汎アジア債券
アジアの国債・公債ファンドです。主要対象国は、中国が約20%、韓国、香港、シンガポールなどがそれぞれ約15%で、日本とかインドは入っていません。シンガポール籍で香港にも上場しています(コードは、2821)。
1677・上場外債
グローバル国債タイプです。但し日本国債は入っていません。米国、欧州主要国国債の割合が大きくなります。毎月分配。株主優待(受益者優待)があるそうです。
1566・バークレイズEM国債
新興国国債ファンドです。1362・IS新興国債券とほぼ同じものかと思われます。隔月分配。

通常の投信との比較で言えば、価格の透明性、取引コストからみてETFはもっとトレードされてよいのでは、という気がします。空売り可能という点も大きな魅力です。今回、中身は「残念」であるとはいえ、とにかく米国債ETFが現れたことは、これまで何かと支障があった個人の債券トレードに一石が投じられたのではないか、という期待があります。これが将来的にJGB(日本国債)ETFにつながれば申し分なし、ですが、財務省がなかなか首をタテにふらないであろうことが予想されます。証券会社的にも、ETFより通常の投信を買ってもらったほうが何百倍も嬉しいであろうことは想像するに難くありません。



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