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【日経リンク債】「期間1年・ノックイン65・利率3%」をどう判断するか

(3)「ノックインして償還」の損失額はどれほどか

ノックインしたら3割以上の損失は覚悟

今度は、オプションの売り手側の予想損失から「期間1年・ノックイン65%・利率3%」の日経リンク債を見てみます。

(2)でも見た通り、ノックインする確率は12.15%と、率としては決して高くはないのですが、ノックインするとその時点で元本の時価は当初の65%に一挙に目減りしてしまいます。そして、償還時に元本がいくら戻ってくるかは、その後の日経平均株価次第で決まります。

果たして、ノックインして償還する場合、元本はいくらくらい戻ってくるものなのか。これを計算してみたところ、平均で68.78%。つまり、ノックインした場合の平均損失は31.22%、3割以上ということです。

これだけの損失が出ると予想される確率が12.15%ですから、損失の期待値(「期待」というのもヘンかもしれませんが)は、「マイナス31.22%×12.15%」でマイナス3.79%です。(2)で見たのと同じように、これを「期間8.3ヶ月(2.765期)で償還する(=3回目の利子 までもらえるか、もらえないかの期間でお終い)と予想される中で、予想損失は3.79%」であると捉えて年率換算すれば、マイナス5.49%。この損失の期待値からしても、やはり年率6%程度のオプション料はもらってしかるべき、と 考えられます。

ちなみに、このオプション売り手の損失の期待値ですが、(2)で見たオプション買い手側のリターンの期待値(平均の償還期間で4.25%、年率換算6.15%)よりもマイナス幅は小さくなっています。これは、オプション買い手側は「ノックインしたところで35%の利益を確定する」と想定しているのに対して、オプションの売り手側は、ノックインしても損失は確定せず、その後の株価によっては損失縮小となる可能性があるためです。

ここまでの結果をまとめると、この日経リンク債の場合、「勝率88%」で勝てるものの、受け取る期待リターンは利払い2回分の1.5%か、3回分の2.25%。一方で、負っているリスクは、平均の償還期間(8.3ヶ月・2.765期)で見れば3.79%。年率にすると、受け取るのは年率3%の利払いで、負っているリスクが5.48%ということになります。

もちろん、この日経リンク債を組成するときに用いたオプション部分のプライシングモデルが、ここで計算したものと同程度のオプション料をはじき出しているかどうかはわかりません。たとえば、組成時に対象とした株価のボラティリティーが低ければ、オプション料はもっと低く設定される可能性があります。

ですから、この日経リンク債に関して実際にどのくらいコストが抜かれているかは定かではありませんが、ただ、過去の長期的な日経平均株価の値動きからすれば、この日経リンク債は「投資家が負うリスクに対して期待リターンがだいぶ低い」と 言っていいでしょう。


「最低このくらいはあってしかるべき」利率の目安

投資家が負うリスクよりも期待リターンが低くなるのは、中間で抜かれている部分があることが主因ですが、中間で少なからぬコストが抜かれるのは何も仕組み債に限ったことではありません。

たとえば、投資信託の中には販売手数料が3%を超えるものもあります。そのうえ、信託報酬やら組み入れ資産の売買委託手数料やらが日々差し引かれています。

高金利通貨建ての外債にしても、たとえばブラジルの政策金利が12%を超えているのに、民間が発行するレアル建ての社債の金利が8%台であったりします。低格付け債券に投資する通貨選択型の投資信託のレアル建てコースなどは、もっと高い分配金が出せそうなものですが、ブラジルの政策金利以上の分配実績を出しているファンドはそうそうお目にかかれません。

これもやはり見えないところで抜かれているコストの存在が大きいと思われます。

純粋な米国債でさえも、売買スプレッドで債券価格の4%〜5%程度は抜かれ、そのうえに為替手数料がかかり、さらには大手・準大手ならば外国証券口座管理料も取られます。

もっとも、「どれだけ抜かれようとも期待リターンが大きければよい。その点仕組み債は期待リターンが限定されている。だから問題だ」という言い方はあり得るでしょう。しかし、見方を変えれば、仕組み債は「投資した資産価値はどういう状況になると、いくらになる」という原因と結果がはっきりしてい るということで、その意味では「どういう理由で基準価額がいくら動くのか」が把握しにくい投資信託よりもわかりやすい、とも捉えられます。

また、仕組み債の購入を考えている人は、「確実性の高い、ある程度まともな利息が欲しいので、リターン限定でも構わない」と言うかもしれません。

ですから、他の金融商品と比べて仕組み債だけが突出してとんでもない商品で、「だから買うべきでない」とは言えないと思いますが、ただ、少なくとも、あまりに投資家側に不利な条件が提示されているものは避けたいところです。

仕組み債各銘柄の発行条件は取り扱い金融機関や販売時期によってまちまちですが、ノックイン水準が当初価格の60%または65%の日経リンク債ならば、年利率が4.5%程度、最低でも4%を目安にしてよいと思います。

「判定日の日経平均株価が当初価格の80%以下ならば、次の利払い日に適用される利率が低くなる」という条件が加わっているデジタルクーポン型の場合には、年利率は5.5%以上はあってしかるべきです。

(仕組み債各種の“本当のリスク・リターン”に関する詳細情報は、また改めて別の形で提供する予定です)

また、以前にもふれたことがありますが、仕組み債の投資で最も警戒すべきは、リスク・リターンのアンバランスもさることながら、途中解約が原則不可、すなわち、損切りが許されないという点にあります。ノックインする確率がどんなに低くてもゼロではありません。その事態に備えて、日経平均先物やミニ先物など、ヘッジの手段を準備しておくことが肝要です。

(さらに興味のある方は、<コラム>「早期償還条項はあったほうがいいのか」をご覧ください


【日経リンク債】「期間1年・ノックイン65・利率3%」をどう判断するかは、以上です。

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