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はじめての人のための<円建て&外貨建て>
『日本一やさしい 高利回り債券の見つけ方』

【外債投資】果たして「円高でチャンス到来!」なのか?

円高なら外貨建て商品が「安く買える」とは限らない

大震災直後、ザラ場中に1ドル=76円台という円高水準をつけた後、円安方向に戻すのか、と一旦は思われたものの、ドル円レートは再び80円割れをうかがう動きになっています。

前回の80円台割れのとき投資機会を逸してしまった、と思っている人の中には、「今度こそチャンスを逃すまい」と、いま虎視眈々と構えている人もいるかもしれません。

が、ちょっと待った、です。

確かに、円高ならば外貨は安く買えます。しかし、投資対象の外貨建て商品が「安く買える」とは限らないからです。

これは、「外貨といってもいろいろあるので、投資対象の通貨を選ぶべし」という意味ではありません。

たとえば、米ドルに対して円高であっても、他の通貨に対してはさほど円高ではない、というようなことは実際にあります。ただ、円高が急伸する局面は、程度の差こそあれ、ほとんどの通貨に対して円高です。

「<日本一やさしい>高利回り債券の見つけ方」の中でも取り上げているように、スイスフランがやや円に近い動きをする傾向があるくらいで、それ以外の通貨の基調は米ドルと同方向。まるで「全世界が敵」の如く、円だけが集中砲火的に買われてしまいます。

ですから、米ドルに対して円高ならば、ほとんどの通貨は「安く買える」と考えてよいのですが、投資対象によっては、為替レートが有利なときに買っても、その他の要因が投資するうで不利な状況になっていることがあります。

この「その他の要因」を十分に考えることが極めて重要です。

長期の外債は為替よりも債券価格の影響のほうが大きい

たとえば、外貨建ての債券の損益を円ベースで考えるとき、その変動要因となるのは、為替レートだけではありません。金利(利回り)、言い換えれば債券価格も大きな変動要因です。

金利(利回り)が高い状況のほうが投資に有利なのは言うまでもありません。金利(利回り)が高いというのは、債券価格が安いということですから、為替レートは円高(=外貨安)、なおかつ、債券価格が安い(利回りが高い)ときが、まさに投資の絶好機といえます。

ところが、外債の中でも期間が長いものは、「円高急伸のときに債券価格安」という状況にはなかなか遭遇できません。そうした局面があれば是非とも逃したくないのですが、現実には、むしろ全く逆に「円高急伸のときに債券価格はすっ高値」ということが珍しくないのです。

上のグラフは、30年物の利付き債の利回りをもとに計算した期間30年の米国ゼロクーポン債の価格の推移と、ドル円レートの推移です。一見して、双方のボトムとピークが逆になっている局面が多いことがわかると思います。

このグラフは、昨年7月から約1年間の短期的な動きを示したものですが、「高利回り債券の見つけ方」でも紹介しているように、この傾向は中長期で捉えても変わりません。

債券の価格は期間が長くなるほど安く(利回りは高く)なり、その価格の変動度合いも大きくなります。

米ドル債で言えば、期間が20年超となると、短期間で債券価格が1割程度動くこともそう希ではありません。対して、ドル円レートが短期間に1割も動くような状況があったとすれば「相当に大きな動き」とされることでしょう。

ということは、円ベースで考えるならば、円高で買ってその後為替が円安方向に行ったとしても、債券価格がもっと大きく値下がりして「円換算すると損が出る」となる可能性もあると考えなければなりません。

長期の外債は円安でも債券価格が安いときを狙うほうが有利

では、先ほどの期間30年の米国ゼロクーポン債の価格は、円ベースで見るとどのようになるのか。円換算額の推移を見てみましょう。

明らかに、円換算額の推移は、ドルベースの債券価格の推移に近い形を描いています。すなわち、そのピークとボトムはドル円レートとは逆になる局面のほうが多い、ということです。

となると、期間の長い米ドル債は、円高時に買ってもあまりおいしくない、むしろ、円安でも債券価格が安いところで買ったほうが有利、と考えておく必要があります。

実際、ドル円の目先の最安値は3月17日の1ドル=78.74円、4月6日には1ドル=85.26円まで戻しましたが、ドルベースの債券価格は3月17日が26.9399、4月6日は25.7045と値下がりしています。

その結果、1ドルあたり6.5円以上、8%以上も円安になっているにも関わらず、円換算額は3月17日の21.2125円が4月6日に21.9157円と、3.3%程度しか利益が出ていません。

むしろ、この目先の円安水準とつけた4月5日にドルベースの債券価格25.7045で買ったとすると、6月8日に為替は1ドル=79.99円という円高になっている一方で、債券価格が28.7379に上昇しています。そのため、円換算額は21.9157円が22.9875円と、4.9%も増加している計算になります。

ドル円の為替差益を狙うなら“ゼロ金利”物で

円高が急伸する局面になると、「外貨投資のチャンスだ」といった論調がマネー関連マスコミ方面からしばしば出てきます。しかし、ここまで見てきた通り、外貨モノなら何でもいいというわけではないのが実情です。

そもそも「円高がチャンス」というのは、「為替差益が狙ううえでの」チャンスを意味します。ですから、長期の外債のように為替差益が取れても債券価格でやられる可能性がある「為替以外の要因」が大きい投資対象は、円高がチャンスになるとは言い切れないわけです。

逆からいえば、円高をチャンスにするならば、為替以外に円ベースの損益を動かす要因がほとんどない投資対象のほうがよい、ということです。

たとえば、同じ米国債でも、期間が非常に短いものは債券価格の動きはそう大きくありません。とくに、ゼロ金利下にある現在、債券価格の変動は極々限定的になっています。

昨年7月初め、期間1年の米国債の利回りは0.31%と低水準でしたが、その後さらに利回りは下がり、6月8日時点では0.17%です。その間の債券価格の最安値は99.8452、最安値は99.9201と、変動幅はわずかに0.075%でしかありません。

ちなみに、この間の30年債の価格の変動幅は40%以上です。

債券価格がほとんど動かないのであれば、円ベースの損益はほとんどドル円レートで決まります。

上のグラフのオレンジの線は、ドルベースの1年債の価格にドル円レートを掛けて円換算額を出したものですが、その推移はほとんどドル円レートの推移と一致しています。ドル円が8%円安になれば円換算額もほぼ8%増える、ということです。

円高を為替差益を狙うチャンスにしたいのならば、このような投資対象がうってつけ、といえます。

実践上の話でいえば、短期の米国債よりも米ドルMMFのほうがコストは安く、また取り扱っている証券会社が多いので、何かとメリットがあると思います。運用会社によっても異なりますが、現在の米ドルMMFの金利(分配金実績)は0.1%台と、まさに為替差益をストレートに狙えるゼロ金利状態です。

過去にも何度か円高急伸の局面がありましたが、思い出されるのは、2008年の“リーマン・ショック”の際に世界中の通貨の中で円だけが買われたとき、とある大手証券会社のネット取引サイトで「円高の今こそ外貨投資のチャンス。ゼロクーポン債なら数万円で投資できる!」などと、大々的に宣伝を行っていたことです。

そのとき、米国債は買いまくられて価格は大爆騰状態。そうした超すっ高値のところで「買うチャンスだ!」というのは、高値をつかませてなおかつ債券価格の売買スプレッドを大幅に抜いてやろうという意図が見え見えと言わざるをえません。米ドルMMFではほとんど為替手数料しか抜けませんから、勧めたくなかったのでしょう。

そうしたハメ込みに引っかからないようにしたいところです。


【外債投資】果たして「円高でチャンス到来!」なのか?、は以上です。

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