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【投資信託】「特別分配金」の謎

(2)分配後の個別元本額の修正が意味するもの

「分配前に一旦売却、分配落ち後に買い直した」と想定すると…

少なくとも、金融庁の管轄下にある金融機関が販売する投資信託は、詐欺まがいのものであろうはずはありません。

おそらく、税法上の扱いである「元本の払い戻し」というのは、そうした「取り崩し」とは異なるものと考えられます。

たとえば、分配直前の基準価額1万1000円(1万口あたり)のときに1万口買った人は、翌日1000円分配金をもらって、時価評価額は1万円に下がります。

これは確かに「元本の払い戻し」と言っても差し支えないでしょう。

この人は、分配落ちの基準価額1万円で買ったのと状況は同じです。よって、分配金1000円分は非課税、その後の個別元本額が1万円になる、というのは納得できます。

既にそのファンドを保有している人全てについても、たとえば、「分配前の基準価額で一旦売却し」「その売却代金の中から分配金額分を受け取り」「残りの売却代金分で基準価額が下がった同じファンドを買い直す」と想定すれば、同じような扱いにすることが可能ではないでしょうか。

たとえば、基準価額1万2000円で1万口買った人の場合、分配前の基準価額1万1000円で売却し、売却代金1万1000円のうち1000円をキャッシュで受け取って、残り1万円で分配落ちして基準価額が1万円になったファンドを買い直した、と想定します。

1万1000円での売却は“損切り”に相当しますから、この売却代金は当然非課税。この売却代金の中から受け取るキャッシュ1000円ももちろん非課税です。これが特別分配金の扱いです。

また、このとき売却損1000円が出ているわけですが、これは買い直した基準価額1万円に上乗せします。つまり、想定する“買い直し価格”1万円を、「1万1000円で買った」とみなすのです。

これによって、課税ラインが1000円分上昇します。たとえば、後に1万2000円でこのファンドを売却したとき、買い直し価格1万円とすれば2000円が課税対象ですが、買値を1万1000円としておけば、1000円分課税対象額が少なくなります。

この新たな「みなし買値」をその後の個別元本金額とします。

これは、個別元本金額を調整することによって、売却損の損益通算を自動的に行っていることを意味します。

最初の買値である基準価額1万2000円からみると、分配後の個別元本額が1000円下がったようですが、実質的には1000円分個別元本額は上がっている、ということです。

このファンドを1万300円で買った人の場合は、まず、1万1000円の売却で700円分の利益が確定します。よって、売却代金1万1000円の中から受け取る1000円分のキャッシュのうち、700円は利益確定分として課税対象、差し引いた残りの300円分は非課税とするのが妥当でしょう。

これが、利益確定で課税対象の700円は普通分配金、残りの300円分は特別分配、というわけです。

なお、この人の場合、損益通算はありませんから、実質的な買値は、想定の“買い直し価格”の1万円の扱いで問題ありません。これが、その後の個別元本額になります。

一方、このファンドを9000円で買った人の場合、分配前の基準価額1万1000円で一旦売却すると、ここで2000円分の利益が確定します。よって、この利益確定分から受け取るキャッシュ1000円は全額課税対象、すなわち普通分配金の扱いになります。

さらに、残りの利益分1000円も課税対象ですが、これは分配落ち後の“想定買い直し価格”1万円を1000円引き下げることで調整します。想定では1万円で買い直しているもの を、それより1000円安い「9000円で買った」とみなすわけです。

そうすると、たとえばこのファンドを後に1万円で売却したとき、想定の“買い直し価格”が1万円では課税されませんが、 “みなし買値”9000円のもとでは1000円が課税対象になります。

この新たな“みなし買値”がその後の個別元本額で、見た目的には、「最初の個別元本額9000円は変わらない」となります。

これも結局、損益通算を自動的に行っていることにほかなりません。

分配金支払いごとに全ての受益者が決算を行っている

このような想定をしてみると、普通分配金と特別分配金の意味がわかってくるのではないでしょうか。

結局のところ、分配金ごとにそのファンドを保有する全ての受益者が決算を行って評価替えし、その際の損益を「分配後の個別元本額の修正」という形で調整している、ということです。

特別分配金は、元本の払い戻し的なものとは言えますが、そもそも分配金が支払われるのは、債券ファンドの場合ならば「組み入れ債券の利払い金」があるからです。それが還元されていることには違いありません。

特別分配金が非課税とされるのは、この決算を「一旦売却し、分配落ち後に買い直す」と想定すると(バーチャルな)売却損が生じるためで、その売却損分は個別元本額に加味されます。

ですから、特別分配金は、その人の投資資金の取り崩しでもなければ、その人の元本を毀損するものでもありません。

おそらく、この特別分配金のシステムは、投資信託の損益通算が認められた際、損益通算の申告およびその処理量を抑制する意図があったのではないかと思われます。

次は、(3)警戒すべきはファンド全体の“元本毀損”、です。

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